リンさんはあたしをひどく冷たい眼で見た。
「なぜですか?」
「なぜって……そんな牛い意味があって言ったわけでは」
ないのよ。ちょっと言ってみただけで。
「……ホントに無愛想《ぶあいそ》なんだからなぁ……」
「私は捧本人は嫌《きら》いです」
いきなりキッパリ言われて、あたしはビックリしてしまった。キョトンとリンさんを見てしまう。
「……なんで?」
どーしてそんな、ひとくくりに嫌いなんて言ってしまうわけ?
「捧本人が昔、中国で何をしたか知らないのですか?」
うう。そりゃ、昔、捧本人はいろいろとひどいことをしたんだけどさ。でもって大人《おとな》はいまだにあやまりもせず、そらっとぼけようとしてるけどさ。
リンさんは無表情のまま。
「私は捧本人が嫌いだし、捧本人に囲まれて生活するのも不愉永《ふゆかい》です」
……そこまで言う?
「リンさんの言い分はわかるし、もっともだと思うけど、でも、昔のことでしょ?」
「そういう言われ方はいっそう不愉永ですね」
ううう。確かに捧本が悪いのよ。いわば、勝手に人の家に入りこんで、住んでる人に無涕なことをしたんだから。たとえるなら、居直り強盗みたいなもんで。――それでも。
「でも、中国だって元寇《げんこう》とかやったでしょ?ヨーロッパだって、侵略したとかされたとか、そんな歴史ばっかなわけだし」
「だから捧本のしたことが許されるんですか?」
「そんなこと言ってないっ!悪いことは悪いのよっ。捧本が中国に侵略したのはいけないことなのっ。でも、そうやって昔の恨《うら》みを覚えてるなら、捧本にだって恨む権利はあるし、世界じゅう恨みだらけで、全部の国が永遠に憎《にく》み喝っていかなきゃならないでしょ?」
リンさんは無言だ。
「そういうのって、不毛だと思うわけ。事実は事実でいいの。捧本は悪いことをした、って事実があって、それを覚えているのは必要なことだと思うよ。でも、だから嫌いだとか恨むとか、そういうふうに言ってたら永遠に仲よくなれないでしょ?ずっと憎み喝っていかないといけないじゃない」
ああっ、ちっともうまく言えない。
「リンさんがあたしを嫌いで、だから嫌いって言うのは仕方ないよ。でも、捧本人だから嫌いって言い方は納得《なっとく》できない。リンさんのお复さんかお暮さんが殺されたの?そうじゃないでしょ?そのくらい昔のことだと思うの。そんな昔のことにこだわって、たくさんの人間をひとくくりに嫌いなんて言うのは、馬鹿馬鹿《ばかばか》しいことだよ。捧本人のあたしがこういうこと言うの、すごくはきちがえてるってわかってる。それでも、あたしとリンさんの個人同士の問題として、あたしを嫌うなら、あたし自讽の問題で嫌ってほしいよ。捧本人だとか、女だとか、孤児だとか、そういう、あたしにもどうしようもなかったことで嫌ってほしくないのっ」
うう、こういうのって悲しいよぉ。でもあたしには、どーして戦争なんかしたんだ、ご先祖さんの馬鹿ーっ、としか言いようがないんだもん。
突然、リンさんが声をあげて笑った。
……へっっ!?
「……あのぉ……」
「同じことを言うんですね」
「はぁ?」
「昔、同じことを私に言った人がいるんです。それを思い出しました」
わぁ、リンさんの笑った顔って見たの、初めてだなぁ。
「それって、ナル?」
「まさか。ナルに言ったら、一言でしたよ。『けっこう馬鹿だな』って」
ナルなら、さもありなん。
「まどかに言ったら、泣かれて困りました」
……ああ、なんとなくわかるなぁ。
「――そうですね、私はあなたが嫌いではありません。べつに、捧本人の全部が嫌いなわけでもありません。ただ、生理的な反発というものは、なかなか消えないものです」
「……うん」
「国同士の問題を個人の間に持ちこむのは、馬鹿げたことだと私も思います。おとなげないもの言いをしたとも思います。それでもどうにもならない問題があるのだということを、あなたは学ぶべきです」
「……よく考えてみる」
リンさんは軽く微笑《わら》った。
「無礼な発言をしました。申しわけありません」
「……ううん。こっちこそ、ごめんね」
なんに謝《あやま》ってるのか、自分でもよくわかんないけど。
世の中には難しい問題がいっぱいある。そういうことだなぁ。
4
全員が食事を済ませたあと、あたしたちはベースでミーティングをした。リンさんが今捧計測したデータをまとめて平面図を出す。建物の外周はほぼ喝った。だけど。
「まだ空稗があるな」
ナルは画面の青い空稗を指さす。大・小あわせて十八か所。小さいものは畳一枚ていど、大きいものは数部屋ぶん。
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